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映画『わがチーム、墜落事故からの復活』公開!もう1つの浦和レッズとのドラマ
- 2019/6/10
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南米では、クラブチームの王者を決めるサッカー選手権 『コパ・リベルタドーレス』 が有名だが、2016年、もうひとつの南米王者を決める『コパ・スダメリカーナ』の決勝戦「アトレティコ・ナシオナルvs.シャペコエンセ」。
その決勝戦の地へ向かう飛行機で事故が起きてしまうという 悲劇※ に襲われたシャペコエンセ。
※詳細は「ラミア航空2933便墜落事故」を参照
所属選手の大半を失ったことにより、実施が難しい状況となり、対戦相手のアトレティコ・ナシオナルも同意のもと、シャペコエンセの不戦勝が決定、その年の王者となった。
そんな悲しみと喪失を抱えたシャペコエンセの、その後の戦いに迫ったドキュメンタリー映画『わがチーム、墜落事故からの復活』が今年7月に公開される。
その公開に先立ち、2017年8月15日に埼玉スタジアムで行われた、 JリーグYBCルヴァンカップ(旧ナビスコカップ)と、南米のコパ・スダメリカーナ、それぞれの優勝クラブが対戦する『スルガ銀行チャンピオンシップ2017』で見られたもう一つのドラマを紹介しようと思う。
コンディションと天候の影響で内容は低調も気持ちの入った好試合
2016年の王者「浦和レッズ」と「シャペコエンセ」の対戦が行われたその日は、天候不純が続いた2017年の夏を象徴するように、朝から雨が降り続き、夜の7時から始まった試合中も、常に小雨がちらつく天気。
気温こそ高くはないが、ジメジメとへばりつくように蒸していた。
時期的にも、お盆休み真っ只中の平日夜という、サポーターにもあまり優しくない条件のなかで、通常のリーグ戦、または前月に同じく埼玉スタジアムで行われたドルトムント戦から比べると、寂しい観客の入りだったが、それでも熱心なサポーター11000人以上が詰めかけ、熱戦を見守った。
今シーズン中盤に、突如の不調に陥り、監督の交代があり、また選手の疲労も考えられる浦和と、長距離移動、チーム再建の途中にあるシャペコエンセという、コンディション的には決して万全ではないチーム同士の戦いであったため、正直、試合の内容は低調なものだった。
ただ、浦和にもブラジル出身の選手は所属していて、いろいろな背景のもと、互いに選手の気持ちは十分に感じられる、好試合だったと個人的には思う。
復活のために譲れない戦い!終了間際の判定に漂う不穏な空気
そんな、勝ちたいという気持ちを爆発させたのは、試合終了間際の後半43分、浦和のFWズラタンが、ペナルティーエリア内でシャペコエンセのDFグローリに倒されPKを獲得した場面だ。
確かに、足が掛かって倒れたように見えるが、2人が交錯する流れでそうなったようにも感じる、それは見ている人、審判によって判断の分かれる非所にデリケートなジャッジだった。
しかし、こんなことはサッカーにおいては良くあることで、多少抗議をしても、すぐに気持ちを切り替えるものだが、この日のシャペコエンセの選手たちは執拗に審判に食い下がった。
PKを蹴ろうと、ボールをセットする浦和の阿部選手をよそに、キーパーは拒否をするかのようにゴールマウスに入ろうとしない。
そのしつこさに、浦和サポーターからはブーイングが漏れ始め、次第にスタジアムは異様な空気に・・・ようやく落ち着いたところで、PKを冷静に阿部選手が決めて、それが浦和の決勝点となった。
試合終了後も、納得できないシャペコエンセの選手たちは、審判団に詰め寄り、後味の悪さが残ったまま、勝者である浦和のタイトルセレモニーが行われた。
スタジアムの空気を一変させたサポーターの行動
そうして浦和のセレモニーが終わると、シャペコエンセの選手たちは曇った表情を浮かべながら、少ないながらも駆けつけた、自分たちのサポーターが陣取るゴール裏の方へ向かって軽く挨拶をして引き上げようとした…
その時だった!
逆側にある浦和ゴール裏のサポーターからポルトガル語で書かれた横断幕が掲げられた。
「vamos nos encontrar novamente nos campeonatos mundiais! amigos!!」
「世界の舞台でもう一度戦うことを楽しみにしています、友よ!」
Embed from Getty Images
それと同時に、シャペコエンセのチームカラーである緑のカラーでスタンドを埋め尽くしたのだ。
シャペコエンセの選手達はピッチの中央でその光景を見つめ、浦和サポーターの行為に感謝の意を表すと、いつも真っ赤に染まるスタジアムからは、まぎれもないシャペコエンセへの拍手が鳴り響いていた。
数人の選手は、浦和サポーターの元へ駆け寄り、ユニフォームを脱いでスタンドに投げ込み、いつまでも鳴りやまない拍手に包まれながら、シャペコエンセの選手、関係者はピッチを去って行ったのだった。
熱さと過激さが隣り合わせのサッカーの世界で見た美しい光景
おそらく、あのまま試合が終わっていたら、シャペコエンセの選手たちは悔しさだけを残して日本を後にしていただろう。
もちろん、あのような事故を経験したチームに拍手が送られることは他でもあるかもしれないが、敵チームのカラーをゴール裏に掲げ、巨大な横断幕でメッセージを送るという光景は、サッカーの世界は広いと言えども、なかなかお目にかかれるものではない。
本人たちも浦和サポーターのそういった行動に驚いたようで、PKの判定をされてしまった、DFでキャプテンでもあるグローリは試合後のインタビューで思いを語った。
「あんなにきれいなオマージュ、サポーターの表現は見たことがない。本当に改めて、日本の皆様のおもてなしに感謝します」
「想像もしていなかった。日本人の優しさと愛情に感謝したい。素晴らしい瞬間だった。浦和にはおめでとうと伝えたい。チャンピオンに値するチームだった」
というメッセージを残した。
他の選手も「結果は悔しいが、温かい気持ちで日本を後にすることが出来る」と、浦和サポーターへの感謝の言葉を口にしている。
普段は両チームのサポーターが、相手を揶揄したり野次を浴びせたり、バチバチの応援をするのは、スタジアムでは良くあることだ。
それが、サッカー観戦の醍醐味でもあるのだが、その熱さが時に悪い方向に出てしまう事もあり、どちらかと言えばネガティブな部分が取り上げられる事が多い。
しかし一方で、スポーツには好きな競技(世界)を共有しているもの同士が「繋がる」というポジティブな面もあるということを、再認識させられる素晴らしい瞬間だったと思う。
お互いがもっと強くなり、本当に、浦和サポーターが言うように、クラブワールドカップ(世界の舞台)で再戦できたなら・・・
そこでまた、サッカーの素晴らしさ、スポーツの持つ力を感じることが出来るだろう。
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