米アカデミー作品賞『パラサイト』快挙の背景 ハリウッドに漂っていた改革の予兆

第92回米アカデミー賞、その作品賞や監督賞を始め4冠に輝いた韓国映画『パラサイト 半地下の家族(Parasite)』(ポン・ジュノ監督)。特に最高賞となる作品賞の受賞は、韓国映画のみならず、英語圏(外国語)以外の映画では初となったことで、映画史に残る快挙だとし称賛されている。

ヨーロッパでウケてもアメリカでは…

欧米では社会の歪みと向き合うような映画が評価される傾向にあるのは、2018年のカンヌ映画祭で作品賞(パルム・ドール)を賞した是枝裕和 監督の『万引き家族』を見ても分かるだろう。そして2019年にも『パラサイト 半地下の家族(Parasite)』がパルム・ドールを受賞し、アジア映画が2年連続となったことからも欧米での評価の高さが伺える。

しかも格差や貧困をテーマにした社会派という作風も似ているから、現在の評価(ウケる)の傾向が読み取れる。

だが、やはりアメリカのアカデミー賞となると、それ以上のエンタメ性や知名度が必要になるなど「また話が違ってくる」というのがこれまでの概念だった。

なぜ外国語の映画をハリウッドが受け入れたのか

そもそも米アカデミー賞では、英語圏以外の映画を『外国語映画賞』として分けており、かつては「特別賞」や「名誉賞」などと呼ばれていたこともあった。それは元々英語圏に限ったローカルな映画祭だったことを意味しており、それ故に規模こそ大きいが(映画の中心地という考えも大きい)、カンヌやベネチアに比べて保守的と言われている映画祭であった。

だが近年、ハリウッドを要するロサンゼルスといった都市部などで政治的にリベラル色が強まる傾向から、度々各賞のノミネートが白人ばかりになると「白人至上主義ではないか?」と俳優や監督など映画関係者からも反発が起きる向きもあった。

その一方で、ハリウッド映画というと最近では過去のヒット作品のシリーズ化や、アメコミや漫画の実写化、海外作品のリメイクなどが目立ち、オリジナルの質の低下が指摘され始めていた。さらにそこへネット配信サイトが台頭し、クオリティの高い作品を輩出するようになってきたことで環境の変化にも対応していかなければいけないという局面にもあったのだ。

Netflixの台頭に見えた変化の兆し

そんな中で明らかに米アカデミー賞が変わったと思わせたのが、昨年2019年にNetflix(ネットフリックス)オリジナル映画『ROMA ローマ』(アメリカとメキシコの合作)が作品賞にノミネートされたことだろう。劇場公開ではないネット動画配信(限定的な劇場公開あり)の作品がノミネートされたことに物議をかもしたが、カンヌ映画祭で弾かれた作品を評価の対象として米アカデミーが判断したことは、今後のオスカーの行方に影響を与えることは予想された。

残念ながら 「ROMA ローマ」 は最有力とされながら受賞を逃した※ ものの、アメリカ映画界に改革の意識があることを感じさせた。

そして、そういった時代や環境の変化とハリウッド界隈の「保守的な思想」への警戒感や「反トランプ」の高まりとが相まって 『外国語映画賞』 も『国際映画賞』と名称を変更したタイミングでもある今年、『パラサイト』がオスカーを受賞したのだ。

これは米アカデミー賞の改革元年として位置付けられると同時に、映画史に刻まれる快挙を果たしたことになる。

「多様性にどう向き合うか」

それこそが米アカデミー賞が直面していた問題であった。そこに現れたのがあらゆる映画祭で喝采を浴びていた『パラサイト』だった。まさにハリウッドとしても「ベストタイミング」であり、もはや作品賞の受賞は必然でだったということなのかもしれない。

◇  ◇  ◇

もちろん、それらの要素があったなかでも単純な社会風刺では終わらないサスペンスやコメディなどの娯楽要素も取り入れた『パラサイト』が作品として秀逸だったことは言うまでもない。

もちろん、その快挙を同じアジアである韓国に先を越された日本の映画界は悔しさもあるだろう、だが韓国映画のみならず、アジアやそれ以外の地域、人種に米アカデミー賞が門戸を開いたという意味では映画関係者のモチベーションは上がるだろうし、国に関係なく喜ぶべき出来事なのは、これもまた言うまでもないこと…

※オスカー受賞最有力とされた「ROMA ローマ」だったが、一部から異論が噴出し作品賞は「グリーンブック」となった。

       

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