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- パリ選手村にエアコンがない!?エコ五輪も近年の熱波で迫られる欧州の暑さ対策
いよいよ7月26日に開幕が迫った2024年パリオリンピックだが、これから現地に向かう選手のほとんどが利用する選手村は、セーヌ川沿いの広大な敷地に82棟、約7200部屋が用意されてるという。
敷地内には練習場や巨大なジムが完備され、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮するための健康維持に最も重要な施設となるが、その選手村の設備には一部懸念があるというのだから参加国にとっては穏やかではない
目次
真夏のオリンピック選手村にエアコンがない!?
オリンピックの開催が迫ってくると競技場の建設が遅れてるといった話が出るのはあるあるだが、まさか選手村の設備に不安を抱えることになるとは選手たちも想定外だろう。
今回の開催地であるフランス・パリの大会組織委員会は「史上最も環境にやさしい」大会を目指しており、環境保護の観点から選手村にはエアコンの設置がされていないというのだ。
その代わりに床下には冷水が流れるパイプが設置してあり、そこに地下水を流すことで室温を外気より6~10度程度下げられるシステムが導入されていて、要はそれが今流行りの「エコ」ということらしいが、果たしてそれが本当にエコなのか...
またそのエコの押し付けがアスリートのパフォーマンスや健康に影響を及ぼすことになれば大変だ。
ヨーロッパの夏は涼しい?迫られる暑さ対策
元々温暖な南ヨーロッパ(スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャ等々)では高温になるが、近年はイギリスやフランス、ドイツなどでも度々熱波の影響が伝えられる。
それにヨーロッパは一度熱波に襲われると、40度を軽く超えるような暑さに見舞われることもあり、湿度が高く不快な暑さが特徴の日本とは暑さの種類は違うので一概にどっちが厳しいとも言えないが、気温だけで言えば日本よりも高くなり危険な暑さであることは確かだ。
パリで史上最高の42.6度観測 欧州の熱波ピーク迎える
2019年7月26日|AFP BB NEWS
イギリスで気温40度を突破、観測史上初 欧州で記録的暑さ続く
2022年7月20日|BBC NEWS JAPAN
日本人からするとヨーロッパの夏は過ごしやすい印象もあるが、元々このような熱波に襲われることは珍しくはないようだが、それが近年の温暖化によって毎年のように高温の記録が更新されており暑さ対策は無視できないレベルに達している。
夏の平均気温上昇中。パリ市が熱心に取り組む暑さ対策
トラベルWatch|荒木麻美のパリ生活
それは、オリンピックが開催されるパリも例外ではない。
毎年のように熱波が襲うヨーロッパ!一般家庭のエアコン事情は?
そもそもヨーロッパでは日本のようにエアコンが普及していない。
特にヨーロッパの中でも暑い地域として知られる南ヨーロッパ(イタリア、スペイン、ポルトガル)あたりでもそうなのだから、それよりも北に位置するイギリス、フランス、ドイツなら、なおのこと必要のない存在だろう。
なぜかといえば、最高気温でこそ日本とそう変わらない南ヨーロッパでも湿度が低いため、日陰に入れば暑さをしのげてしまう。それと住宅事情。ヨーロッパには古いレンガや石造りの建物が多く、家の中に熱を通しにくいこともあり通常の暑さなら問題にはならないということだ。
だが、先にも触れたように、近年は通常の暑さではなくなってきている。
日本も毎年のように猛暑に見舞われているが、各家庭や公共の場所ほぼ全ての屋内で空調設備が整っているため、屋外に出ないことや運動さえ控えればしのぐことができる。
要は逃げ場があるということ、それがヨーロッパでは普通ではないのだ。ただ暑さ対策といっても簡単にはエアコンを設置できない事情もある。
特にヨーロッパには歴史的な景観を守っている地域も少なくない、そもそも古い建物は外観に関する規制でエアコンの室外機を設置できないことや、設置するにしても外壁に穴をあけるのが困難など構造上の難しさがあるという。歴史のある古い建物でも木造建築の日本とは事情が違うのだ。
ブレるエコに問われるオリンピックの存在意義
これからヨーロッパでも暑さ対策が必須といわれる中で、既存の建物に設置が難しいのならともかく、これから建てられるものにさえエアコンが取り付けられていないというのは果たして理にかなっているのだろうか。
パリ五輪は東京以上の酷暑? 研究者が改めて警告
2024年06月20日|JIJI.com
こうした指摘がされているにも関わらずに…
代わりに導入された冷水を床下に循環させるシステムというものも果たして本当に効果的でエコなのだろうか。
特にマンションなど現代の鉄筋コンクリート造の建物は気密性が高く、断熱性にも優れている利点がある一方で、一度室内に熱が蓄積されると逃げにくく、またコンクリートそのものが日光の熱を蓄熱しやすいため、日が落ちて夜になっても室内の温度が下がりにくい傾向がある。
これは日本で猛暑日の夜に「エアコンがなかなか効かない」という経験をしている人も多いはずだ。
湿度は少ないが日差しが強く、焼けつくような暑さになるヨーロッパでは、なおさら建物自体が蓄熱することになる。
建物内に張り巡らされたパイプに地下水を行き渡らせるには、おそらく相当な数のポンプが必要になり、そのシステムを稼働させるために必要エネルギーも大きなものになるはず。
またトラブルが起きた際、エアコンならば個々に修理なり交換をすれば済むが、大規模なシステムになればなるほど一度トラブルが起きれば影響は全てに及び、それがもし猛暑の真っただ中に起きればどうなるのかは想像に難しくない。
まさかのエアコンの持ち込みOK!?
このような選手村の状況に不安を抱いた国の代表団に対して、大会組織委員会はポータブルエアコンの持ち込みを許可するという。
そうなると大規模な冷水システムを導入したうえ、排除したはずのエアコンを持ち込ませるとなれば掲げたエコもブレることになり、オリンピックを利用して体裁を整えただけの壮大な茶番ではないのか。
また資金力のある国とそうでない国でも差が出るとなれば貧富の格差を浮き彫りにし、普遍性と連帯という五輪憲章の根本にも反する。
そして最高のパフォーマンスを競い合うはずのオリンピックで公平性を欠くというのは、大会そのものの存在意義にも関わってくる問題だ。
地球の環境問題は待ったなし、だが…
確かに人類にとって地球の環境問題は待ったなしなのはわかる。
だが気候変動に対して、低エネルギー、環境保護にアプローチするのも重要だが、一方でその影響から命を守るためには文明の利器(知恵)に頼ることも必要なのだ。
会場や選手村などの施設をどうこうして「エコ五輪」を気取るのにも違和感がある。
それ以上に大規模な選手団と世界中からメディア関係者や観戦客が移動することの方がエネルギーを使うため、今後オリンピックを続けていくのなら「オリンピックそのものがエコではない」ということを理解すべきだろう。